転職活動をしている人なら一度は耳にする「即戦力」という恐ろしい言葉。
「あれこれ教えなくてもすぐに貢献してくれる人が欲しい」という企業側の要望ですね。
特に大手からベンチャーに転職を考えている人は、これによってハードルが高くなり、尻込みしているのではないでしょうか。(私がそうだったからです…)

新しい職場で働くのに、初日から成果をだせなんて無茶だ!

今の会社に不満があるから転職したいのに、それじゃ同じような会社しか入れないじゃないか!
そんな心の叫びが、はち切れんばかりに届いております。
確かに、言葉通り解釈すると「ありえない」と感じますが、「なぜそのような人材が求められるのか」という背景に実は面接突破のヒントがあるのです。
本記事では、大手からベンチャーに転職し、現在も人事として働いている立場から、その「即戦力」というキーワードを噛み砕いて解説していきます。
ただ未経験採用が厳しいという話ではなく、転職市場における評価基準を学び、適切に対策するという内容なので、是非最後までご覧下さい。
転職市場における即戦力とは
そこまで即戦力が求められる理由
まず、転職というのは課題解決の手段です。
自身の志向性に沿って、妥協なく転職先を選定することがベストです。
一方で、企業にとっても、中途採用は課題解決の手段です。
ゆえに、先方も妥協なく候補者を選別していきます。
- 事業規模の拡大
- 新規事業の立ち上げ
- 欠員補充
等々…
上記は一例ですが、企業側は何かしらの事業課題に対して「人を採用する」ことで解決を図ろうとしています。
人をひとり採用するだけでも大きなコストですが、それを新卒ではなく高単価の中途採用で検討しているのです。
なぜなら、社会人としての基本スキルはもちろんのこと、直面する事業課題を解決し得る「即戦力性」を有しているためです。
したがって、転職市場においては、即戦力が前提となるケースが多いのです。

業界・職務・規模で選別される
では、具体的に何を評価されているのか。
結論を述べると、経験してきた業界・職務・規模の3点が即戦力、即ち内定獲得率に大きく影響します。

「面接で強みをアピールするんだ!」と考えていても、残念ながら書類審査で門前払いというケースは往々にしてあります。
- 業界経験があり、ビジネスの仕組みを理解している
- 職務経験があり、特定領域の専門性を有している
この2点は、即戦力性を測る上で最も分かりやすい物差しです。
更に、企業の規模・フェーズによって組織体制やオペレーションが異なるため、近しい環境で働いてきた経験がより好ましいと判断される傾向です。

正確で丁寧な仕事をして欲しいな。
指示通りに動いてくれるかな?

多少粗くてもスピード重視でやって欲しいな。
自分で考えて動けるかな?
- 中途採用は、企業にとっても課題解決の手段である
- 転職市場では、即戦力が前提となるケースが多い
- 即戦力か否か、業界・職務・規模で選別される
オファー年収への影響
選考を進めることだけに気を取られてはいけません。
その過程で処遇面のすり合わせも並行しますが、業界・職務・規模はオファー年収にも大きく影響します。
即戦力であれば期待値も高く、その表れとして相対的に高い年収が提示されます。
逆も然りです。
例えば、希望ポジションが業界・職務ともに完全な未経験である場合。
何とか内定を勝ち取ることが出来ても「未経験なのだから」と言われ、求人票に記載されている年収(●00万円~▲00万円)の最下テーブルを提示されるかもしれません。
その場合、こちらも交渉材料がないため、強く出られないのです。
だからといって、無理に背伸びをするのは自分を苦しめるだけです。
経歴詐称は論外ですが、盛ったキャリアにより高額オファーを獲得しても、所期する機能発揮が出来なければ翌年には年収ダウンし、周囲からは「期待はずれだ」と冷ややかな目で見られるかもしれません。
未経験ポジションの選考で希望年収を聞かれた際は、以下の回答を参考にして下さい。

- 現年収は700万円で、希望としては同水準を維持したいと考えております。(初めから妥協してはいけない)
- 一方で、未経験業界で少なからずキャッチアップに時間を要するため、550万円までのダウンは理解出来ます。(それを下回ったら辞退するという最低限の水準)
- 選考の中でまた相談させて下さい!(焦らずフェーズを重ねる中ですり合わせていけば良い)
しっかりと本音も伝えつつ、自分を客観視した謙虚な姿勢で臨むことが大切です。
この表現であれば、交渉の幅は残しながらも、印象を損ねることはないでしょう。
- 業界・職務・規模はオファー年収にも影響する
- 盛ったキャリアで転職しても、自分に企業の課題は解決出来ない
- 選考で希望年収を伝えるのは構わないが、自分を客観視した謙虚な姿勢を心掛ける
自分を採用する論点を認識する
「なるべく業界・職務・規模を変えずに転職するべきだ」と言いたいのではなく、選考においてネックとなる部分をあらかじめ認識し、対策しておくことが重要だと考えています。
採用チームの会議風景を想像してみて下さい。

●●さんね~。
優秀そうだけど、業界未経験か。
キャッチアップに時間かからないかな~。
採用側として、候補者の懸念要素をクリアにするプロセスは必ずあります。

面接しましたが、現職では主体的に課題解決してきているようです。
ビジョンも明確です。
キャッチアップは必要ですが、きっと我々にとっても本人にとってもプラスになると思いますよ!
このように言ってもらえたら、内定にグッと近づきますよね。
未経験であることに対して自分が不安なら、企業はもっと不安に感じているはずです。
大切なポイントは、面接官に「採用しても大丈夫だ」と安心してもらった上で「この人に任せたい」と信頼されることです。
論点は面接前から分かっているのです。
業界・職務・規模のいずれかが未経験なのであれば、先ほどの会話のように面接した人の口から「でも心配いらないよ」と言ってもらえるかどうかです。
それを理解していれば、やみくもに自分の経験をアピールするのは効果的ではないと分かりますよね。
「なぜその企業で働きたいのか」という志望理由は、転職軸を見つける過程で明確になっているはずです。
エネルギーの源泉と、そのベクトルが企業に向いていることを示しましょう。
その上で、転職における不安要素と解決策を提言して、キャッチアップしながら活躍していくイメージを共有しましょう。
なお、現職での成果を根拠として話すには、面接官にとって理解可能な言語に翻訳する必要があります。
大袈裟だと思われるかもしれませんが、無意識のうちに業界用語や社内用語を使っている場合があります。
あなたが様々な工夫と多大な努力により逆境を乗り越えたエピソードも、面接官に伝わらなければ評価されません。
相手によっては、ビジネスコミュニケーション力が低いと判断されるかもしれません。
この時、面接官が評価するポイントは「再現可能性」です。
面接対策についてはこちらの記事で解説しているので、あわせてご覧下さい。
- 自分が採用される上で論点となる部分を認識し、事前に対策する
- 面接官に「採用しても大丈夫だ」と安心してもらった上で「この人に任せたい」と信頼される
- 現職のエピソードは「誰が聞いても一度で理解出来る」ように翻訳・整理して話す
段階的に希望ポジションを狙う「ずらし転職」
ここまで不都合な真実ばかり述べてきましたが、段階的に志向性を満たしていく手段として「ずらし転職」を紹介します。
ある程度の内定獲得率・オファー年収を確保するために、業界・職務のどちらかに軸足を置いて、片方だけを変える転職方法です。
例えば、専門性の高い職務経験があれば、それをウリにして、まずは未経験業界への参入を試みます。
いったん入りこんだら、その中で持ち前の専門スキルを発揮しながら早急にキャッチアップします。
そして、職場での認知・信頼を得たところで、社内異動を志願し、希望ポジションを狙うのです。
もし検討するのであれば、事前に転職先の人事制度を調べておきましょう。
入社をしてから「ジョブ採用だから社内異動は出来ない」と言われたら、どうしようもありません。
面接で正直に話す必要はありませんが、キャリアの形成方法についてフラットに聞いてみてはいかがでしょうか。
- 職務経験をウリに業界を変えることで、全くの未経験よりも内定獲得率とオファー年収をアップさせる
- 転職先では、自分の得意分野を活かし、早期にキャッチアップする
- 周囲の信頼を得ることで、社内異動が出来る状態をつくり、希望ポジションへの道を切り拓く
今回は、自身の人事経験も踏まえて「即戦力」という評価基準と選考対策について解説しました。
転職というのは「求職者」と「企業」が互いのニーズを満たせなければ成立しません。
それは1つの事実ではありますが、決して悲観的に捉える必要はないと考えています。
選考に向けて、次に取るべきアクションは、企業側が自分を採用する「論点」を明確化することです。
マイナス面ばかりに目を向けず、「じゃあここがクリアになればいいんだよね」と開き直る思考法が成功の秘訣です。
但し、そもそも書類選考で門前払いを受けてはどうしようもないので、不安のある方はこちらの記事をご覧下さい。